きみに ひとめぼれなおし
ボールと一緒に上げられた視線が、不意に私の方に向けられた。
目が合って、どきんと胸が跳ねる。
頂点に達したボールは地面に落ちて、トーントーンとバウンドしながら転がっていく。
もう蹴り上げてもらえなくて、寂しそうだ。
見つめてもらえなくて、切なそうだ。
だって、彼の瞳の中には、もうボールは映っていないから。
ボールは一人で勝手に、コロコロと転がっていく。
そのボールに、彼も私も、もう目を止めない。
お互い見つめ合ったまま、次を待つ。

彼の細くて長い両腕が、空に伸びる。
そしてこちらに向かって、ふわりふわりと左右に揺れる。
その腕からは、優しさがあふれだしている。
目尻がふにゃりと下げられると、細い目がさらに細くなって、きれいな弧を描く。

__勝見君。

 大好きな人の名前を、私は心の中でつぶやく。

__好き。

その言葉は、いつだって心の中でしか叫べない。
手を振る姿に、いつも控えめな笑顔を送ることしかできない。
頑張って小さく手を振り返すぐらい。
それすら恥ずかしい。
だけど勝見君は、こうしていつも私に手を振る。
恥ずかしげもなく、人の目を気にすることもない。

__「そうしたいからしてるんだよ」

いつだったか、勝見君はそう言った。

__「坂井さんのこと、好きだし」

思い出して、熱を帯びた頬がだらんと緩む。
私が嬉しくなってしまう言葉を、勝見君はさらりと言ってのける。

__「それに、誰も見てないよ、そんなの。俺は坂井さんが見ててくれたら、それでいいんだから」

最後に勝見君は堂々と、そう言い切った。

「おい、ラブラブすんな、勝見のくせに」
「うるせえ」

そんな罵声を時々聞きながら、私はこうして毎日勝見君を見ている。
待っている。
勝見君が私を見つけて、ああして手を振ってくれるのを。
この場所で。
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