会うことは決まっていた
「どんな頭痛なの」
「どんな……片方がズキズキすることもありますし、全体がどんより重い日もあります」
「毎日?」
「ええと。うーん、軽い頭痛なら毎日かもしれません」
「ふうん」

 生返事をすると、彼は不躾なほど私の顔をじっと見つめてくる。

「な、なんですか?」
「いわゆる慢性頭痛だよね」
「あ、まあ……はい。CTでは異常がないので、低気圧とか、ホルモン関係とか……かなって」

 病院で尋ねられるような質問に戸惑いつつも答えると、彼は腑に落ちた顔で言った。

「CTで異常無いなら器質的な病気じゃないね。旦那に抱いてもらってないの?」
「え?」

 あまりにも無神経なその言葉に、私は思考が一瞬フリーズした。
 まさか顔もさほど覚えていないような女性に、いきなり“抱いてもらってないのか“なんてことを口にするだろうか。
 聞き間違いかと思って黙っていると、彼はそれをさらに念押しするように言う。

「心当たりない? 頭痛は欲求を抑圧した時に出ることが多い。表情も硬いし……多分、巡りが全部滞ってる」
「っ、そんなの、どうして分かるんですか」

(なんなの、この人)

 失礼な物言いにもカチンときたけれど、どこか真実を言い当てられたようなショックで羞恥心が襲ってくる。
 私がこんなにも不快感を見せているのに、彼はどこ吹く風といった表情だ。

「別に信じなくていいけど、一応俺、漢方を出す資格も持ってるからさ。ゴシュユトウでも出しとく?」
「いえ。普通に市販の痛み止めをください。すぐに抑えたいので」
「……わかった。じゃあ、いつも飲んでるやつ教えて」

 彼は特にそれ以上漢方を勧めてくるわけでもなく、あっさりと市販の頭痛薬を売ってくれた。

(言われなくてもわかってるよ。常用してるのはいけないって。でも、飲まないと仕事も捗らないし気分も悪いから仕方ないんだよ)

 薬を買って店を出てからも、モヤモヤが収まらない。

『頭痛があるのは不満があるから。体が痛みで不満を表現している』

 その理屈はなんとなく意識しながらも、ちゃんとは考えてこなかったことだ。
 頭の痛みが私の心の奥底にある不満からきているだなんて思ったこともなかった。

(違う。私は別に欲求不満で頭痛がしてるんじゃない)

 これを認めてしまったら、今の生活が正常に続けられなくなる気がして、私は草壁薬局であったことは心の奥にしまうことにした。
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