会うことは決まっていた

「たまには夫を外食に誘ってみようかな」

 急にひらめいてメールしてみるけれど、それは夕方になるまで既読もつかなかった。
 仕事中にメールをするなとは言われているけれど、夜もすぐに寝てしまう夫とは、こうして何かきっかけがないと会話すら成り立たなくなっている。
 なのに、この日は夫の帰りが遅く、帰宅メールが来たのは21時を過ぎていた。

(この感じだと、私のメールには気づいててあえて返事をしなかったんだ)

 既読スルーっていうのは忙しくてどうにもならない場合にそうなるものだと思っていた。
 なのに、夫はそれを意図的にやっている。
 しかも重要な人物には確実に返しているのを見ると、私の立場っていうのは優先順位がとても低いのだと実感する。

(どうして夫婦なのに、こんなに上下関係ができてるんだろう)

 それは結婚当時から思っていたことだ。
 恋人同士の頃は気を遣ってくれて、お姫様のように扱ってくれていた。だから、ずっとそういうふうに扱ってもらえるものだと思っていた。
 なのに、入籍を済ませて数ヶ月した頃から私への扱いがどんどん雑になっていった。

『疲れてる』
『大して稼いでもないあなたに何か言われたくない』

 こんな険悪な夫婦にありがちなセリフを散々にかけられてきた。
 それでも、自分にも悪いところがあるからだろうと。夫の言うことにも一理あると思って、ここまで我慢してきた。

(頭痛が始まったのは、我慢が始まった頃と重なるかな……夜の生活だって、あの頃から義務的になって……)
 
 となると、草壁薬局の若旦那が言っていた言葉が当たっているということになる。
 ただ、原因は性欲だけでなく、日常的な不満がチリツモだったようにも思う。

「どうすれば、この痛みから抜けられるの?」

 そのことをあの人に尋ねるつもりはなかったけれど、心のどこかであの人なら答えを知っているんじゃないかとぼんやり思っていた。
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