再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「その事故が原因で今でも記憶障害が残っている。所々覚えていることはあるが、京都で過ごした期間のことは、残念ながらほとんど覚えていない」
健斗は自嘲するように薄く笑った。
祥は瞬きもできないまま、健斗の話を聞いていた。乾いた眼から一筋涙が零れ落ちる。
思ってもみない告白だった。健斗が事故で記憶を失っていたなんて考えもしなかった。
でもこれで、再会してからの健斗の不可解な様子が理解できる。
健斗が別人のように見えたことも、祥や珈琲のことを全く覚えていなかったのも、全てこのことが原因なのだ。
呆然とする祥を健斗は静かに見つめていた。そして、探るように問いかける。
「京都にいたとき大事な約束をした気がするが、それが誰と交わしたどんな約束だったのかが思い出せない。教えてくれないか。俺はキミと何か約束をしなかったか」
祥は何と言っていいのかわからず、眼をすっとそらした。
記憶のない状態で暮らしていくのにどんなに苦労したことだろう。
健斗のここまでの道のりを考えると胸が締め付けられた。
でも、約束のことを話すのは躊躇われる。四年前と今とでは、お互い立場も事情も違いすぎるからだ。
外国で医者として働く健斗の状況、つむぎのこと、いろいろなことが頭をよぎり、祥はすぐに返答ができなかった。
「それと」
言葉を発しない祥を見て、健斗は覚悟を決めたように言葉を重ねた。
「キミは結婚をせずに娘を産み育てていると聞いた。キミの娘の父親は…」
「俺なのか」