再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「小林さん、ちょっといい?」
マネージャーから声がかかった。
「はい、なんでしょうか」
「ラウンジの吉岡さん、お子さんが発熱したんだって。午後からラウンジに回ってもらってもいい?」
「もちろんです。承知いたしました」
吉岡さんは、祥の託児の先輩だ。
つむぎと同じ歳の子どもがいるが、上にお兄ちゃんがいるので、子育て経験も豊富。
いろいろと相談に乗ってくれる頼れる人なのだ。
つむぎもひどい風邪をひいたが、託児ルームでは季節の変わり目で発熱する子が相次いでいる。
こんな時はみんなでカバー。祥もあっちこっちに駆り出される日が続いていた。
喫茶店のホール係をしていた祥には、ラウンジの仕事は慣れたものだ。
張り切ってラウンジに向かった。
「パンプキンプリンのサービス?」
「そう。今日はハロウィンだから、パンプキンプリンをサービスしてるんだ」
ラウンジのチーフから説明を受けて驚いた。
飲み物を注文してくれたお客様には、プリンをサービスすると言うのだ。
「毎年そんなことしてます?」
「去年はかぼちゃのクッキー、その前はかぼちゃのミニタルト。毎年出すものは変わるけど、サービスしてるよ」
知らなかったの?と呆れられる。
知らなかった。
ラウンジでそんなサービスをしてたなんて。
コンシェルジュとしては失格だ。
ハロウィンに背中を向けながら生きていたせいだと反省する。
そう言えば、『珈琲』では今年もパンプキンプリンを出しているんだろうか。
健斗とデートのきっかけになった出来事だが、思い出してももう辛くない。
帰りに寄ってみようかな。もうプリンは残ってないかもしれないけど。
そんなことを考えて、フフッと笑った。