再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
ラウンジは、プリンのサービスがあると知っているお客様がたくさん来た。
祥よりもお客様の方がよほど詳しい。
毎年それを楽しみにしている人までいるらしく、「プリンいかがですか?」と聞く前に、「Trick or treat」と言ってくるお客様もけっこういる。
「すごい人気ですね」と、祥が感心したように言うと、「毎年こうだよ。新人でもないのに何言ってるの」と呆れられた。
「小林さん、三番お願い」
「はい!」
お水とおしぼりを持ち、三番のテーブルに向かおうとして足が止まった。
そこにいたのは、健斗だったのだ。
「いらっしゃいませ」
何事もなかったように、お水とおしぼりをテーブルに置く。
「ブレンドコーヒーとサンドイッチを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
健斗はなぜか眉間に深くしわを寄せ、こめかみに手を添えていた。
頭痛がするのだろうか。
心配する気持ちが湧き上がるが、余計な言葉がけは無用。
健斗を視界から消すように、カウンターに戻った。
「はい、これ四番テーブルね」
コーヒー二つとプリンが二つ。
四番テーブルの若いカップルにコーヒーを出すと、彼女の方が「Trick or treat」と嬉しそうに言った。
「Here you are!どうぞ召し上がり下さい」
祥が笑顔でプリンをテーブルに置くと、二人は嬉しそうに受け取った。
戻りかける祥に、三番テーブルから声がかかる。
「Trick or treat」
「え?」
「Trick or treat」
祥が足を止めて振り返ると、健斗は不思議な表情で繰り返した。
まるで憑き物が落ちたような、穏やかな顔。
昔の健斗を見ているような錯覚を覚えた。