再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

それから祥は、健斗と離れてからのことをぽつぽつと話した。

『珈琲』のマスターと和子さんに力になってもらったこと。
母とは妊娠をきっかけに良好な関係になり、父とも和解できたこと。
泉ホテルの総支配人と社外取締役が、『珈琲』の常連のシマさんとアオさんで、祥がここで働けるように後押ししてくれたこと。

健斗は頷きながら、じっくりと話を聞いてくれた。

「お世話になった人たちみんなにお礼をしないとな。助けてくれる人がたくさんいて本当によかった」

健斗は祥の頭をポンポンと撫でた。
懐かしい健斗の手。
でも、この手を取る前に聞いておかなければならないことがある。

祥は、気がかりなことを口にした。

「健斗は…。健斗は大丈夫なの?今、大事にしている人はいないの?」
「もちろん、両親にはちゃんと話すよ。でもつむぎを見たら大喜びするだろう。母は子どもが大好きな人だから」

「そうじゃなくて!その…、つきあっている人はいないの?」

健斗は驚いたように祥を見た。

「そんな人はいないよ!誰を見ても心が動かなかったけど、それは祥がちゃんと心の奥にいたからだってよくわかった」

「栞さんだっけ?彼女のことはいいの?」

「栞ちゃん?彼女は俺の患者だよ。今回の手術は彼女の手術だったんだ。ロンドンでお世話になっている先生の娘で、小さな頃から知ってるから兄妹みたいな関係だけど」

栞さんが健斗の患者だったとは。
あの抜けるような白い肌は、心臓が悪いせいだったのかと振り返る。

でも、兄妹みたいな関係?
確かに彼女を見つめる健斗の眼は慈愛に溢れているといえなくもないけど…。
彼女の方は兄妹みたいなんて絶対思っていないはず。

うーんと考え込んでいたら、健斗は祥の髪をそっとほどいた。

「祥の髪、大好きだった。クシャッとかき混ぜると気持ちよくて。でも、長い髪も素敵だ」

健斗の長い指が、髪の間を滑らかに滑る。

周囲の空気が甘いものに変わった。
そっと頭を引き寄せられ、ためらいがちに健斗の顔が少しずつ近づいてくる。

考えないといけないことはたくさんある。
自分を優先する気はないけれど、健斗を愛おしく思う気持ちはもう止められなかった。

祥はそっと目を閉じて、健斗の唇を受け止めた。

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