再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
【おまけ 健斗の一日】
「ママ、穣(じょう)くんがミルク吐いてる!」
「わー!ほんとだ。つむ、タオルタオル!」
パタパタと走り回る音、きゃあきゃあと騒ぐ声で目が覚めた。
時計を確認すると六時過ぎ。田中家の朝は今日も賑やかだ。
健斗は大きなあくびを一つすると、ベッドを降りてリビングに向かう。
独身時代は仕事柄昼夜が逆転することがよくあったし、朝食を取らないことも多かった。でも、今は当直じゃない限り、家族と一緒に朝食を取るようにしているのだ。
「パパ、おはよう!」
「おはよう。朝から賑やかだな」
「穣くんがまたミルクを吐いたの」
つむぎは穣が汚した服とタオルを抱えている。
「つむぎはもう立派なちびママだな」
「だってもうすぐ六歳だもの」
頭をポンポンとなでると、自慢げに頭をそらす娘が頼もしい。
「あら!ごめんなさい。うるさかった?」
穣の服を着替えさせながら、祥が申し訳なさそうに眉を寄せた。
「いや、もう起きようと思ってたから大丈夫。譲はまた吐いたのか」
「うん。でもつむぎもよく吐く子だったから、うちの子はそういう体質なのかも。すぐに朝ごはんの支度をするわね」
祥は事もなげに言うと、穣を抱き上げあやすように揺する。
「あー」と喜ぶ穣にチュッとキスをすると、健斗にハイと手渡した。
大きく『毛玉』と書いた背中が、パタパタと去っていく。
結婚後、ずっと『満足』Tシャツを着ていた祥だが、穣が生まれてから『毛玉』『足汗』Tシャツを頻繁に着だした。
なぜなのか聞いてみたら、「初心忘るべからず!」というキッパリした答えが返ってくる。
どうやらつむぎが乳幼児の頃、『毛玉』『足汗』Tシャツを着ていたらしい。
当時の苦労を忘れまいという祥なりの考えなんだろう。
その頃の話が出ると、健斗はどうしても申し訳ない気持ちになる。
今も、つむぎが赤ちゃんの頃よく吐く子だったと聞いて、祥が一人でどんなに心細かっただろうと、胸が痛むのだ。
祥はそんな健斗に気づいているのか、昔の苦労話もカラっと明るく話してくれる。
強く明るい妻には本当に頭が上がらない。