再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
朝の陽射しが入り込むダイニングで、家族そろって取る朝食は和やかだ。
つむぎは学校のことを楽しそうに話し、穣はバウンサーに座って「うー」と喃語で相づちを打つ。
健斗はこの時間がたまらなく好きだ。
ずっとこの時間でもいいと思うくらい。
だがそうはいかない。家族のためにも父はしっかりと仕事をしないといけないのだ。
朝食を食べた後は後片付けを手伝って、出勤準備をする。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
玄関で見送ってくれる祥と穣にキスをし、家を出る。
つむぎを学校に送り、そのまま病院に向かった。
健斗は京都の大学病院に移籍することになっている。
お世話になった教授が来年定年を迎えるので、最後に傍でその技術を学びたかったのだ。
教授の後継者というにはまだまだ力不足だが、そうなりたいという意気込みを持って頑張っていきたい。
担当患者を少しずつ別の医師に移行中なので、医者になって以来、今がもっとも時間に余裕がある。
京都に行けばまた忙しい日々が始まるので、この貴重な時間を家族に費やしたいと思っている。
病気を克服した一人娘が海外に留学し、寂しい思いをしている上司から羨ましがられながら、今日も定時どおりに仕事を終えて病院を出た。
夕方、薄暗がりの中、家に帰る。
自宅近くには大きな公園があって、そこを突っ切ると近道なので通勤路として使っている。
この公園にはもちろん竹林などないが、この時間帯に公園を通っているとあの時のことをよく思い出す。
わかたけ文庫の庭で祥と話したあの時のことだ。