再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

『あなたはもう、無くした記憶を取り戻そうと努力する必要はないんです。どうか今ある幸せを大事にしてください』

薄暗がりの中で健斗にそう告げた祥はとても綺麗だった。

正直に言うと、あの時、祥からは責任の取り方を打診されるだろうと思っていた。

健斗が忘れてしまった約束は、祥と交わしたものだという確信があったし、つむぎが健斗の子どもであることも明白だ。

子どもを認知してほしい、あるいは、結婚してほしい、どちらを望まれても健斗は応じるつもりだった。

祥に対して愛情があるかと言われれば、なかったかもしれないが、責任を取ることに異存はなかった。

それなのに、祥は健斗との約束は忘れてしまったと言ったのだ。

『つむぎの親は私一人です。私だけの子どもです。あなたとは何の関係もありません』

そう言いきった時の祥は神々しくさえあった。

健斗は呆然としながら祥を見ていたが、それは祥に見惚れていたからだ。
凛とした美しい祥に魅了された。

そして、その後見つめ合ったわずかな時間で、祥の思いを汲み取った。

『祥とつむぎを抱え込む必要などない。あなたは好きに生きていい。』

健斗に対する祥の深い愛情だ。


健斗は一瞬で恋に落ちた。
人は何度でも同じ人に恋をすることがあるらしい。
健斗はそういう体験をしたのだ。

運よく記憶を取り戻すことができたが、もし記憶が戻らなくても、何としてでも祥を手に入れただろう。

祥こそが運命の人。
夫婦となった今はなおさらそれを実感している。

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