再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「どうかな?」
返事をしない祥の顔を覗き込むように彼は言った。
うーん、どうしようかな。
迷ったが、一度だけ出かけてみようかという気になった。
祥はデートというものをしたことがないのだ。
二十歳になるのに、デート一つしたことがないなんて侘しすぎる。
こんなに素敵な人が初デートの相手だと、いい記念になるかも。
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
今までの取り繕っていた態度は捨て、いつもの調子で答える。
恋愛対象から外れると、途端によく見せようという意識がなくなる。
所詮女子なんてそんなものだ。
「よかった」
にこっと微笑む彼は本当にかっこいい。
あー、マジ残念。
祥が心の中でがっくりと項垂れている間に、彼は持っていたノートをびりっと破ると、サラサラと何かを書き込んで祥に渡した。
「バイトが終わったら連絡して」
祥はメモを受け取って、カウンターに戻る。
そっと開いてみると、綺麗な字で名前と電話番号が書かれていた。
「田中健斗さんか…」
こう言っちゃナンだけど、本当に普通の日本人の名前なのね。
でも「健斗(ケント)」なら外国でも通用するか。
ふーん、と祥は思った。
一時間前の祥なら名前がわかって小躍りしそうなものだが、残念ながらもうそこまでじゃない。
さ、仕事仕事。
腕まくりをして、洗い物に取り掛かった。