再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

朝晩は涼しくなってきたとはいえ、九月の京都はまだまだ暑い。
午前中の涼しいうちに観光をしようという観光客がチラホラいる中、小林祥(こばやしさち)は必死で自転車をこいでいた。

ダラダラと続く坂道を立ちこぎで乗り越えようと踏ん張る。
「あの人すごい!」と人に笑われようとも、この道が最短ルートなので致し方ない。

今日はバイト先の喫茶店の開店準備を任されているのに、大寝坊をしてしまったのだ。

この坂道を登り切れば後は下るだけ。
あと10メートル、5メートルと言い聞かせ、最後の力を振り絞る。

坂の頂上に着いた時の達成感。ヤッホーと叫びたい気分だ。
京都の整然とした街並みを見下ろし、額の汗を拭う。
九月下旬だというのに朝から汗まみれ。
トホホとしか言いようのない気分で、祥は後悔していた。

一時間前、グーグー寝ていた自分を叩き起こすことができれば…。

どこからともなく漂うキンモクセイの香りが、お疲れ様とねぎらってくれる。
だが、ここで休む時間の余裕はない。

「さて、行きますか」

独り言ちて、今度は坂道をゆっくりと下りていった。

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