再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

いつもの場所に自転車を停め、預かっていた鍵でお店の扉を開ける。

ドアベルがカランコロンと音をたて、長年染みついたコーヒーと料理の匂いがフワッと祥を包んだ。

喫茶『珈琲』

「喫茶店の名前が『珈琲』ってすごいね」
新規のお客様には必ず突っ込まれるが、喫茶の名店だ。

どストレートな名前で祥も初めはびっくりしたが、マスターの淹れたコーヒーを飲んで大いに納得。
店名の通り、このお店はコーヒーが素晴らしく美味しいのだ。

完璧に計算された苦みと酸味。

「ここのコーヒーを飲んだら他では飲めない」
常連客のシマさんはいつもそう言ってくれる。

祥も淹れ方を教えてもらって、自分で淹れてみたりもするけれど、全然違うものになってしまう。
同じ豆を使っているのになぜ?と不思議でならない。

祥はコーヒーが大好きで、古風な純喫茶を巡ることを趣味にしていた。

このお店も通っていたお店の一つなのだが、マスターの奥さんの和子さんにスカウトされ、一年ほど前に常連客からアルバイトに転身したのだ。


背負っていたリュックをバックヤードの棚に放り込み、手早く黒のエプロンを身につける。

時計を気にしながら、急いで店の掃除を始めた。

使い込まれたテーブルや椅子、扉などをキュッキュッと磨く。
たくさんのお客様が来ますように。そう願いながら一つずつ丁寧に拭き上げていく。

掃除が終わったら、軽食の下ごしらえ。
『珈琲』は和子さんが作る喫茶店グルメも人気があるのだ。

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