再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
大きな白襟とカフスのついた黒いワンピースをサッと着て、肩甲骨の辺りまである髪はクルクルと巻いて夜会巻きにする。前髪を斜めにセットすると出来上がり。
手先があまり器用じゃない祥は、この髪型だけをマスターした。
きちんとしたイメージを与えることができるのでとても便利だ。
長髪好きな親に反抗して短くし、ショートが好きだったオトコと別れて髪を伸ばす。
かわいそうに祥の髪は、祥の意地に振り回されている。
無縁だった化粧ももちろん今はする。教えられたことを再現するだけで、アレンジなんて一切ないけれど。
でも、ホテル勤務にふさわしい上品なメイクさえ覚えておけば問題はなかった。
祥は今、コンシェルジュとして働いている。
小さな子どもがいるので、夜間シフトはない。働いてから気づいたが、泉ホテルは本当に働く母に優しい会社だった。
最終面接で面接官だった藤島葵取締役が、そんな会社の体制に変えたのだそうだ。
藤島取締役は社外取締役で、普段は有名和菓子店『京泉』の副社長秘書をしている。
泉ホテルが、『京泉』を中心とした『泉グループ』と言われる関西屈指の企業グループの一員であることも、祥は入社して初めて知った。
藤島取締役は、『京泉』創業者一族の和泉家の出身で、泉ホテルの藤島総支配人の妻だ。