再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「へー!」
同期で同じコンシェルジュの浅野麻季(あさのまき)にその話を聞いた時、祥は大いに感心した。
憧れだけで入社したので、そんな裏話は全く知らない。
「あんた、そんなのでよく通ったね」
麻季は心底呆れたような顔をした。
従業員控室にある大きな姿見で全身をチェックしてから、持ち場のロビーに向かう。
7センチヒールのパンプスを履いて、姿勢よくカッコよく。
背がさらに高くなるのが嫌で、パンプスは履いたことがなかったが、勤めだしてからは仕方がないので履いている。
目立たないように背中を丸めてしまう癖も、とことん直された。
そうして出来上がった175センチ超えの身長も、「背が高いですけど、それが何か?」という開き直りで働いているのだ。
コンシェルジュカウンターには麻季がいた。夜勤だった麻季と交代で祥の勤務が始まる。
「おはようございます」
「おはようございます」
お客様の目に着く場所なので、普段は親しい麻季とも丁寧にやり取りをする。
「来週の『循環器学会シンポジウム』の資料が出来上がっていますので、目を通しておいてください」
「承知いたしました」
「では、よろしくお願いいたします」
笑顔で引継ぎを済ませ、カウンターの下でひらひらと手を振って、麻季は帰っていった。
チェックアウトの時間が近くなると、コンシェルジュカウンターは大忙しだ。
お客様の要望に応えて、車の手配、ランチのレストランの予約、オススメの観光ルートの案内などをする。
慌ただしいが、とても楽しい。
お客様の楽しい旅の思い出をサポートしたいという、祥の夢が実現しているのだから。