再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
四年前、就職が決まって、祥は親に本当のことを打ち明けた。
兄の結婚が決まり、結婚式で両親と会うことになっていたし、授業料も生活費も出してもらっている身で、勝手に出産するのはさすがにだめだと思ったのだ。
まずは兄に相談を、と思い連絡したところ、兄は仰天して飛んできた。相手は誰だと詰め寄られたが、祥は絶対に口を割らない。頑固比べなら子どもの頃から祥の方が勝つ。兄は仕方なく、一人で子どもを産み育てるという祥を許してくれたのだ。
その後、兄は実家に三年ぶりに帰るときにも付き添ってくれて、両親と話をする場に立ち会ってくれた。
ホントに俺は祥に甘いよなぁ、とぼやいていたけれど。
七月中旬、暑い暑いと言いながら、兄と二人で駅からの道を歩く。
『小林循環器内科』という看板が遠目から見えたとき、祥は胸がキュッとなった。
父の経営する診療所は、そこそこ大きい。
実家はその隣に建っているが、久しぶりの実家もやけに大きく見えた。
緊張する気持ちを落ち着けて、実家に足を踏み入れる。
連絡を入れておいたので、両親はちゃんといてくれた。
なんとなく老けたような気がするのは気のせいだろうか。
父は相変わらずの頑固親父そのもので、三年ぶりに娘を見ても何の感慨もないらしい。
母は祥を見て涙を浮かべ、「元気そうでよかった…」と小さな声でつぶやいた。
父の前に座り、全て正直に打ち明ける。
妊娠していること、でも結婚の予定はないこと、大学を卒業したいので、最後まで学費を出してほしいこと。
「就職も決まってるし、出産も子育ても全部一人でする。迷惑は絶対に掛けないと約束するから、学費だけは最後まで出してほしいの。お願いします」
祥は頭を深く下げて、父に頼んだ。
あれほど嫌だった父への頼み事も、子どもを産むためだったら何でもないことに思える。
祥にとって、お腹の子ども以上に大切なものはもうないのだ。