再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
黙って祥の話を聞いていた父は一言訊ねた。
「父親は誰だ」
「それは言わない」
父と祥は目を合わせたまま譲らない。無言の戦いだ。
この時、父と自分は本当に似てるんだなと初めて思った。
二人の無言の攻防に、兄は苦笑いし、母は静かに涙をこぼしている。
長い静寂のあと、父は小さくため息をつき、「就職はどこに決まったんだ」と聞いた。
勝った!祥は、心の中でガッツポーズをした。
「『京都 泉ホテル』。入社するときには子どもが三ヶ月になってるけど、もう託児制度を使うことは認めてもらってるの。だから大丈夫」
「妊娠してるのに、内定をもらえたのか?」
「うん。それは本当に感謝してる。だからしっかり働いて、会社の役に立てるように頑張る。子どももちゃんと育てていくから」
だから、お願いします、と祥はもう一度頭を下げた。
「…勝手にしろ」
父はそう言うと部屋を出て行った。
「ありがとう!お父さん」
祥は背中に声をかけた。
『勝手にしろ』
祥が京都の大学に進学を決めた時にも同じことを言われた。
その言葉に反発するように家を出たが、父は学費を払ってくれたし、毎月欠かさず生活費も送ってくれた。
父なりに親の務めを全うしてくれたのだ。
好きだとは到底思えないけれど、この歳まで育ててもらったことには感謝しかない。
ありがとう、お父さん。
祥は父が出て行った方向にもう一度頭を下げた。
「なんだかんだ言っても、親父も結局は祥に甘いんだから」と、兄は祥の頭をポンと叩いた。
「よかったな、祥」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
母は涙を拭いて、「泊っていくでしょ?」と聞いた。
「まだ単位が残ってるの。試験があるから帰る」
カバンを持って立ち上がる祥に、母は寂しそうに「そう」と言った。