再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「祥ちゃん、ありがとさん。助かったわ」
「おはようございます。昨日のイベントどうでした?」
「大盛況やったで。一日で200杯も淹れたのは初めてや」
少しお疲れ気味に、でも充実した顔でマスターは笑っていた。
昨日は烏丸にある『くらき百貨店』で『京都の隠れた名店』というイベントがあったのだ。
あまり世に知られていないが絶対にオススメ、という店にスポットを当てようという企画らしい。
『珈琲』にも出店の声がかかった時、和子さんと祥は喜んだ。
京都にはこんな素敵なお店があるんだよと知ってもらえるいい機会だ。
でも、マスターは「イベントの次の日の営業が辛いからなあ」と渋った。
だから、祥が開店準備を買って出たのだ。祥が準備をしたら、マスターたちは一時間遅く出勤できる。
マスターの満足気な顔を見ることができて、祥も頑張った甲斐があるというもの。
坂道で立ちこぎしてよかった。
いや、立ちこぎをする羽目に陥ったのは、祥が寝坊をしたせいだけど。
祥は京都市内の大学で、観光学を学んでいる大学二年生だ。
将来はホテルに勤めたいという夢を持ち、人気観光地である京都で勉強がしたくて東京から出て来た。
今日は午後に授業があるので、バイトは一時まで。今は勉強とアルバイトで手一杯だが、充実した毎日を送っている。
十一時になったので、扉にかけてあるプレートをひっくり返して『営業中』にする。
店内はマスタ―が淹れた一杯目のコーヒーの香りが漂い、せわしなかった気持ちもやっと落ち着きを取り戻した。
「はい、祥ちゃん」
マスターは湯気の立つコーヒーカップをカウンターに置いた。祥は最初に淹れたコーヒーを味見させてもらえるのだ。
「いただきます!」
カップを手に取り一口飲む。今日も安定の美味しさ。ばっちりです、とマスターに笑顔で報告した。
ドアベルがカランコロンと鳴り、来客を告げる。
「おはようさん」
今日も一番客は土産物屋を営む常連の宮本さんだ。