再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
目線を上げないと目が合わないくらいの高身長。
色素の薄い髪、眼も薄いベージュだ。
眼鏡はかけていないけれど、祥にはわかる。
健斗だ。
サーッと血の気が引いていく。
カウンターに手をつかないと、倒れてしまいそうだった。
何も言えない祥の代わりに、麻季がテキパキと手続きを開始した。
「お名前お願いいたします」
「田中健斗です」
宿泊者名簿で「タナカケント」さんが来るのは知っていた。
事前に目を通した時に気づいたので。
でも、祥が勤めだしてから、タナカケントさんは何人も来た。
初めは本人だったらどうしようと思ってビクビクしていたが、いずれも別人。
タナカケントさんは世の中にたくさんいるのだ。
だからもう気に留めることはなかったのに。
「キミ、顔色が悪いな。大丈夫か?」
健斗は顔色一つ変えずに祥にそう言った。戸惑う様子は全くない。
祥は二度目の衝撃を受けた。
健斗は祥のことを覚えていないのだ。
目の前が真っ暗になった気がした。
「申し訳ございません」
絞り出すように言うと、初めて仕事場を放棄してバックヤードに逃げ込んだ。
必死に化粧室にたどり着き、震える体で座り込む。
どういうこと?
覚えていないなんて、そんなことある?
健斗が演技をしているようには見えなかった。本当に初対面の人に対する態度だ。
再会する日を想像することはあった。
嫌そうな態度を取られるとキツイな、なんて思っていたが、まさか祥のことを覚えていないなんて誰が思うだろう。
ギュッと目を固く閉じ、震えが収まらない体をギュッと抱きしめた。