再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

健斗にとって祥はそれくらいの軽い存在だったのか、と思う。
わずか四年であっさり忘れられるくらいの。

『祥が大学を卒業したら一緒に暮らそう』

健斗にそう言われた時、勝手に将来の約束をしたような気持ちになっていた。
今さらながら、バカだなと苦笑する。

子どもだったのだ。初めての恋で舞い上がっていた。
祥には健斗が全てだったが、健斗はそうじゃなかった。それだけだ。

視界の下の部分で、赤いヘルメットがゆらゆらと揺れた。

「あるく、あるく、どこまでもー」

元気に歌うつむぎの声が、祥を現実に引き戻した。

そうだ。祥にはつむぎがいる。
二人の生活に初めから健斗はいなかったじゃないか。

健斗が祥のことを忘れていても、何の支障もない。
祥も記憶から消してしまえばいいだけの話。

祥の足に力が戻ってきた。

深く考えるのはよそう。
今までと同じように生きていくだけだ。

「つむ、今日の晩御飯はカレーだよ」
「カレーだいすき!」

つむぎが手をパチパチと叩いた。

「おひさま、おひさま、らんらんらん」

祥は前を向き、つむぎと一緒に歌いながら我が家に帰った。


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