再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)

「美味しいコーヒーが飲める喫茶店を紹介してもらいたい」
健斗は淡々と要望を告げた。

張り付けていた笑顔がサッと冷める。

へー。長年暮らしてたくせに、そんなことも忘れたわけね。

健斗の顔には相変わらず何の変化も見られない。やっぱり祥のことは微塵も覚えていないのだ。

健斗にとって、祥はただのコンシェルジュ。
祥の方はかなり動揺したが、意地でも悟られるもんかと踏ん張った。

「美味しいコーヒーですね。歩いてすぐのところに、日本中に支店を展開している有名店の本店がございます」
極上の営業スマイルでオススメした。

健斗が去っていくと、麻季がボソッと呟いた。

「祥が『珈琲』を薦めないなんて珍しいね」
「あの方、イギリスの人でしょ?海外のお客様には有名店をオススメした方が無難だよ」

祥もボソッと返事を返した。

こっそりと健斗の宿泊者名簿を確認したが、住所がロンドンになっていた。
結局ずっとロンドンで暮らしているらしい。

調べてる時点で意識してるよね、と突っ込まないでほしい。
これから健斗が何日間滞在するのか、祥にとっては大きな問題なのだ。
驚くべきことに、健斗の宿泊予定は6週間になっていた。

6週間!?
どうしてそんなにいるのよっ。

セミスィートルームに6週間も宿泊してくれる上客に対する態度としては最低かもしれないが、祥は心底うんざりした。

これからずっとこの試練が続くのか。
いや、その前にきれいさっぱり忘れ去ってしまえばいいだけだ。

上等だ。負けてたまるか。
祥は記憶抹消を強く決意した。

それにそんなにコンシェルジュに用事もないだろうし。
姿をチラッと見るだけなら余裕余裕。

そんな風に楽観的に考えていた祥の思惑を覆して、その日の午後も健斗はコンシェルジュカウンターにきた。

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