再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「美味しいコーヒーが飲める喫茶店。別の店を紹介してほしい」
祥は引き攣りながら「先ほどのお店はお気に召しませんでしたか?」と訊ねた。
「いや、うまかったが、チェーン店じゃなく個人経営のところに行きたいんだ」
信じられない返事に、祥は初めて健斗の顔を真っすぐに見た。
健斗は『珈琲』のことも忘れてしまったのだろうか。毎日のように通っていたのに。
無表情のまま祥の返事を待っている健斗は、祥の知っている健斗ではなかった。
楽しいことなど何もない、健斗の表情はそう言っているように見えた。
いつも生き生きとしていて明るい人だったのに。
その時初めて健斗に何かあったのだろうかと考えた。
これでは姿だけが健斗で中身は別人みたいだ。
心配する方向に引きずられそうになり、祥は慌てて気持ちを立て直した。
いやいや。深く考えるのはよそう。
祥がすべきことは、健斗のことを忘れること。ただそれだけだ。
祥はまた営業スマイルを顔に貼り付けた。
「では、こちらのお店はいかがでしょう。注文してから豆を挽いてくれるので、とても香り高いコーヒーを飲むことができます」
祥は、ホテルから歩いて二分ほどのところにある喫茶店を紹介した。
いかにも職人という感じのマスターが一人で経営している店だ。
「ありがとう」
健斗は最後までにこりともせず去っていった。