再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「また『珈琲』じゃないんだ」
麻季がぼそっと呟いたが、祥はもう何も答えなかった。
「あー、疲れた」
一日の業務が終わり、ロッカールームのベンチに麻季はぐったりと腰を下ろした。
今日は断続的にお客様が来て、ろくに休憩も取れなかったのだ。
ホテル内は常にざわざわとしていて、カウンターに立っているだけでも落ち着かない。
「忙しかったね。シンポジウム期間中はこんな感じなのかな」
さっと制服を脱ぎ、帰り支度をしながら祥は苦笑した。
やめてー、と悲鳴を上げる麻季の肩をポンポンと叩いて慰める。
「あと二日だよ。がんばろう」
麻季は大きなため息を吐いた後、よっこらしょと立ち上がり、のろのろと着替えだした。
「あのイギリスのお客様。田中様だっけ?一度ちゃんと話をしてみたら?」
「何よ、突然」
髪をほどいていた手を止めて、祥は聞いた。
「知り合いなんでしょ?祥、初めからおかしかったもの」
「知り合いじゃないよ」
ほどいた髪を一つに結わえながら、祥は投げやりに答えた。
「祥」
麻季は、小さな子どもを諭すように言った。
「祥の事情を知ってて、つむちゃんを見たことがある人なら、全員そう言うと思うよ」
「……」
残念ながら、麻季の言うことはもっともだ。つむぎは健斗にそっくりなのだ。