再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
ロッカールームを出て、総支配人室に行く。思い立った時に言っておかないと、すぐに忘れてしまうのだ。
『総支配人室』と書かれた扉をノックする。
「どうぞ」という渋い声が聞こえ、祥は重厚な扉を開けた。
「小林さん、どうかしましたか?」
藤島総支配人はパソコンを打つ手を休めて、祥を見た。
オールバックの髪に、スクエア型の縁なしメガネ。
総支配人はいかにも優秀なホテルマンという容貌をしている。四十代の半ばくらいだろうか。それはそれは素敵なおじ様なのだ。
「突然申し訳ありません。少しお時間いただけますか?」
祥は手短に事情を説明した。
「休暇を利用して、知り合いの喫茶店を手伝いたいんです。給料は発生しないので、副業には当たらないと思うのですが、構わないでしょうか?」
「喫茶『珈琲』の看板娘復活ですね。構わないですよ」
総支配人はにっこりと微笑んだ。
「『珈琲』の看板娘?」
祥は面食らった。お店の名前も出していないのに、総支配人が言い当てたのだ。
「私は『珈琲』の常連客です。気づきませんでしたか?」
「え!?」
総支配人は笑いながら、机の引き出しから野球帽とサングラスを取り出し身につけた。
「シマさん!!」
そこにいたのは紛れもなく常連客のシマさんだった。
『珈琲』のコーヒーを飲んだら他では飲めないと言ってくれるシマさんだ。