再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
シマさんはいつも野球帽とサングラスという出で立ちで『珈琲』にやって来る。
服装も派手なTシャツや革ジャンで、一言で言えばワイルドな人なのだ。
とても藤島総支配人と同じ人とは思えない。
「もしかすると、アオさんって…」
「はい。妻です」
「!!!」
『アオさん』はシマさんとよく一緒に来る女性客だ。
いつもスカーフを頭に巻き、シマさんと同じように大きなサングラスをしている。
南国の民族衣装のような派手なワンピースを着ていて、国籍不明、年齢不詳。
謎のカップルだと思っていたのだ。
『アオさん』が藤島葵取締役とは!
「小林さんのエントリーシートを見た時、妻と大騒ぎしました。祥ちゃんが泉ホテルを受けに来るってね」
「もしかして、私が受かったのは…」
「別に縁故採用ではありませんよ。ただ、日頃から小林さんの接客の姿勢は見ていたので、面接がしやすかったのは事実ですが」と総支配人は笑っていた。
最終面接が藤島取締役だったのは、偶然ではなかったのかもしれない。
あの時のやり取りを思い出して、またグッとこみ上げるものがあった。
そう言えば、と思うことがあるのでついでに質問をする。
「コンシェルジュカウンターにある『オススメ一覧』は…」
「はい。私と妻で作っています」
どおりで『珈琲』や宮本さんのTシャツが入っているわけだ。
「祥ちゃんが久しぶりに『珈琲』のホールに立つなら、私たちも行ってみましょうかね」
「いえいえ!お忙しいのにとんでもない」
シマさんとアオさんの正体がわかったからには、『珈琲』で会うのは困る。
でも、妊娠していた祥が受かった理由、それがようやくわかった。
「ありがとうございます」
これ以上ない位、深々と頭をさげる。
シマさんとアオさんがいなければ、祥たち親子は路頭に迷うところだったのだから。
麻季といい、総支配人といい、祥は本当に人に恵まれている。
それにしても、シマさんとアオさんとは…
とりあえず誰にも言わないでおこう、と心に決めて、祥は総支配人室を出た。