再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
「おい、祥」
待っていたかのように、今度は兄が祥を呼び止めた。
「ロンドンの田中健斗先生って、お前知ってるか?」
「え?」
「昨日、たまたま席が近くて話す機会があった。田中先生は学生時代、京都で過ごしたらしい。今シンポジウムが行われている大学の医学部を卒業している」
「なんなのよ、いきなり」
「祥の事情とつむぎの容姿を照らし合わすと、そう聞かざるを得ないだろ」
麻季が言った通り、誰もがそう思うらしい。
「知ってるよ。うちのホテルのお客様だもの」
「そうじゃなくて!」
兄は大きな声を出してから、「悪い」と謝った。
周りを気にするように、声のボリュームを絞る。
「田中先生はシンポジウムが終わった後も、しばらく京都に残るらしい。ロンドンから田中先生の患者が来て、手術をここでするんだそうだ」
「だから?」
祥があくまでも白を切るので、兄はじれったそうに諭した。
「ちゃんと話し合え。田中先生はちょっと様子がおかしかった。京都にいたことがある割には、昔の思い出話が出てこない。学生時代のことを全く覚えていないような感じだった」
「……」
「祥。人には思いもよらない事情があることもある。頑なになって大事なものを失うなよ」
兄はいつになく真剣な様子で言い切った。