再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
漠然とした不安の中で、一番気がかりなことがあった。
京都で何か大事な約束をしたような気がするのだ。
だが、誰と何の約束をしたのかがわからない。
事故当時持っていた携帯電話は壊れ、修理できないまま破棄された。
手がかりがないので、『約束』が何なのか探ることもできない。
日本に行かなければと思っても、なかなか長期休暇も取れず、何よりも記憶障害のある健斗が遠くに行くことを母が嫌がった。
焦る気持ちと諦めの気持ちを同時に抱えたまま、時間だけが過ぎて行く。
そんな時、日本の『循環器学会シンポジウム』が京都で開催されるというニュースが舞い込んできた。海外からも参加できると聞き、すぐに参加希望を申請した。
きっかけが重なるときは重なるもので、偶然、別件で京都に行く用事もできた。
健斗は今、父の友人である日本人医師の元で働いているが、その先生の娘が重い心臓病で、その子の手術を京都でする話が出たのだ。
初めは先生が執刀することになっていたのだが、娘の手術となると冷静な対応ができるか不安が残る。
そこで、健斗が大学時代に師事していた教授に相談したところ、執刀してくれることになったのだ。教授はその手術の世界的な権威だったので、本当にありがたい申し出だった。
健斗が京都に行くのに合わせる形で手術日を設定し、手術には患者の親である先生と健斗が立ち会うことになっている。
そうなると母も反対はできない。
心配そうな母をなだめて、なんとか京都行きを決めることができた。