再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
久しぶりの京都の町は記憶になくても懐かしい匂いがした。
白黒の写真に色がつき始めるような高揚感もある。
宿泊先の泉ホテルを見たときには、一層それが強まり、不覚にも涙がこぼれそうになってしまった。
泉ホテルは健斗と何かつながりがあるのだろうか。
チェックインの手続きカウンターに並んで順番を待っていると、対応しているスタッフの女性が目についた。
もちろん面識はない。
背の高い綺麗な人で、なぜか「あぁ、髪が長いんだな」と思う。
胸元のネームプレートには『小林』と書いてあった。
健斗の順番が回ってきたとき、彼女の具合が急に悪くなった。
咄嗟に声をかけたが、彼女は逃げるようにいなくなってしまう。
そんなことがあったからか、彼女のことが妙に気になるようになってしまった。
翌日から美味しいコーヒーが飲める喫茶店を探し始めたが、どこに行っても『ここじゃない』というがっかりした気持ちになる。
何が『ここじゃない』んだろう。
健斗が探す喫茶店には何があるんだろう。
悶々と悩んでいたとき、チェックインの手続きをしてくれたコンシェルジュが声をかけてくれた。
「田中様、美味しいコーヒーが飲める喫茶店をまだお探しですか?」
「あぁ。なかなか思うような味に巡り合えなくて…」
「では、ぜひお薦めしたいお店があります」
そう言って教えてくれたのが『珈琲』だった。
「喫茶『珈琲』…」
変わった名前の喫茶店だな、と思う。でも、口に出してみるとしっくりきた。
「お探しの味が見つかりますように」
コンシェルジュは意味深に微笑み、なぜか深々と頭を下げた。
何かを託された、そんな気持ちになった。