再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
驚いて振り向くと、例の彼がすぐ後ろに立っている。
「女の子が背伸びで物を取るなんて危ないよ」
軽々と箱を取った彼は、和子さんにハイと手渡した。
「まあ、すみません」
和子さんが恐縮すると、「いいえ」と彼は爽やかに笑った。
祥はドキドキする胸を押さえていた。
こんなに近くに男の人を感じたのは初めてだ。
しかも『女の子』って言ってくれた。祥を女の子扱いしてくれる人は少ないのに。
でも待って!
今日は自転車立ちこぎだったから、汗臭いのに!
スススっと距離を取りながら、「アリガトウゴザイマシタ」と小声で礼を言う。
すると、「どういたしまして」と、優しい返事が返ってきた。
食事を終えると、彼は「じゃあ、また」と爽やかに微笑み店を出ていく。
祥は背中を見送ると、深くため息を吐いた。
「あの方、カッコいいわよねぇ」
和子さんがクネクネと身をよじらせながら言う。
祥もうんうんと頷いた。
でも、一部始終を見ていた宮本さんは、呆れたように言った。
「なんや、二人ともイケメン好きなんか?」
「そりゃ女の子は誰でもカッコいい人が好きでしょ、ねぇ祥ちゃん?」
「女の子って。和ちゃん図々しいにも程があるで」
なんですって、と和子さんは怒り、マスターが店で騒ぐなと二人を叱る。
マスター、和子さん、宮本さんの三人は幼なじみなのだ。
いくつになってもみんな仲良し。それぞれのご両親もよく『珈琲』にいらっしゃる常連さんで、家族に嫌気がさして東京を離れた祥にとっては羨ましい関係性だ。
三人がワーワー騒いでいるのを聞きながら、祥は背中に感じた彼の気配を思い出していた。
『じゃあ、また』
帰り際にそんなことを言われたのも初めてだ。
少しお近づきになれたかな。
にやける頬をそのままに、祥はウキウキとお皿を片付けた。