再会は甘い恋のはじまり…とはかぎりません!(おまけ追加しました)
昼の休憩時に見に行ったときには、呼吸が少し楽になっていたので安心する。
着替えさせたときに「ママ?」と小さな声で聞いたけれど、またそのまま目を閉じた。
寝ることだけが回復への近道だ。
「がんばって」
頭をそっと撫でて、また仕事に向かった。
その日の夜もまだ熱は続いた。
でも苦しそうな様子はなくなりつつある。
健斗の見立てでは、明日には熱も下がってくるのではないかということだった。
「よかった。ありがとうございます」
祥がホッとしたように言うと、健斗も穏やかに頷いた。
何年も離れていたのに、この二日間で一緒にいることへの違和感はなくなってきている。
元々は一緒に住もうと思っていた相手なのだから、祥にとっては当たり前なのかもしれないが。
健斗は親し気な態度を取ることもなく、入院患者とその母に対する医者のスタンスだ。
淡々とつむぎの処置をし、祥にも容態の説明があるだけ。
話がしたいと言われていたが、この状況では無理だ。
健斗も同じことを思っているのだろう。
健斗は明日もつむぎを見ていてくれると言った。
「今は手術の準備がメインの仕事なんだ。キミの子どものためにスケジュール調整をしたわけではないので、余計な気を回す必要はない」
健斗は祥の頭に手をかけようとして、ピタッと止めた。
驚いたように自分の手を見ている。
無意識にしてしまった行動に戸惑っているようだ。
「ありがとうございます。お言葉に甘えてもう一日お願いします」
祥は急いで言うと、ベッドルームに行った。
心臓がドキドキと揺れる。
健斗は祥の髪をかき回すのが好きだった。
昔と同じような仕草だったので、髪に触れられるのかと思ったのだ。
ふと見ると、壁にかかった鏡に祥が映っていた。
あの時とは違う長い髪。
もうあの時の二人ではないのだ。
明日にはここを出よう。
祥は鏡に背を向け、つむぎの元に寄っていった。