男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
 ラビとユリシスの睨み合いが始まってすぐ、ノエルが大きく溜息を吐いた。

『寝坊ってのも滅多にないが、もしそうなったら俺がちゃんと起こしてやるから』
「だって、こいつ、オレのこと寝坊魔みたいに言うんだもん」

 人の往来がある中、ラビはユリシスを指差してノエルにそう答えた。途端に彼が「堂々と指を突き付けるとはいい度胸です」と冷やかに言い、端正な顔にマイナス五度の険悪さを滲ませる。

 つい先程まで馬車の中でじっとしていたラビは、尻も痛くてストレスも溜まっていた。外を出歩きたくて足もむずむずすしていたので、ここで口喧嘩をして折角の時間を取られたくないとも思った。

 よし。初めての町だ、自分の足で歩いて回ろう。

 思い立ったら即行動のラビは、ノエルに「行こう」と促すと、男達には「んじゃ後ほど」とあっさりと言って踵を返した。軽く走り出した彼女を見て、セドリックが慌てて呼び止める。
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