男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
 もう一個頭にたんこぶを増やした彼らは、自分達は盗賊業を始めて長く、これまであまり捕まった経験はないのにと半泣きで愚痴った。けれどその下りを聞いた時、ラビの脳裏に浮かんだのは、彼らをボコボコにする直前の光景である。

『つか、あれでよく盗賊家業やってこれたな…………』

 さすがに逃走中にアレはないだろう、とノエルがようやく口を挟んだ。ラビは同感だと心の中で答えて、小さく頷き返してしまう。

 すると、全部顔に出るラビの表情と眼差しから、今回の逃走劇の失敗の原因について指摘されている部分を察した男達が、途端に悲壮感を漂わせてこう言った。

「だってあの婆ちゃん、腰を痛そうにしてたから……うっぅっ」
「馬車の野郎もひどいんだぜ、さっさと退けよババアなんて言ってさ……ぐすっ、可哀そうじゃん…………」
「つい手伝っちまうのが人間だろう?」

 同意を求められても困る。彼らの場合、道徳的なその行いが、盗賊として当時の状況に相応しい判断だったのかといえば微妙なところだ。
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