一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「大丈夫だよ。僕と紗羽さんが寝たなんて、アニキがそんなバカなこと思うわけないさ」
何度相談しても、翔はケロッとして取りあってくれない。
いつも答えは同じだった。紗羽の心配を本気にしてくれないのだ。
「でもあの日、翔さんは殴られたんでしょ?」
いつも冷静な匡が弟に暴力を振るうほど怒ったのが、誤解しているなによりの証拠だろう。
別荘での記憶は曖昧だ。紗羽はボーっとしていてスローモーションのような映像でしか思い出せない。
懐かしい別荘に着いて嬉しくなって、翔のアレルギーを和らげようと部屋の窓を開けた頃までは覚えている。
はっと気がついた時にはベッドの中だった。
匡の声が聞こえた気がして目が覚めたのだが、彼の姿は見えなかった。
意識がはっきりしてきた時には匡はもう別荘にいなくて、頬を真っ赤に腫らした翔が床に座り込んでいたのだ。
「ま、ほとぼりが冷めたらアニキも冷静になるさ」
「ほとぼりって言われても……」
紗羽にしてみれば、翔がのんびりしているのが不思議でならなかった。