一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


紗羽は周りの人から顔を見られるのが怖くなって、次の駅で降りてタクシーに飛び乗った。

(早く家に帰ろう。帰らなくちゃ!)

匡は義兄から紗羽を守ってくれた恩人だし、翔とは別荘を見に行っただけだ。
どうしたらあんな記事になるのか、世間知らずの紗羽には理解出来ないことだらけだ。

ずっと下を向いていたが、タクシーの運転手がスピードを落とし始めたのがわかった。
やっと屋敷の近くまで帰ってきたと思うとホッとした。
だがタクシーの窓から外の様子を伺うと、門の前にカメラマンや記者が数人いるのが見えた。
車から降りたら、あの人たちの前を通り抜けなくてはいけない。

「あの、すみません。東京駅までお願いできますか? お買い物忘れちゃって」

苦しい言い訳だが、紗羽は運転手に無理をお願いしてその場から離れることを選んだ。

ここまで騒がれると、匡の会社の様子が気になった。
紗羽はスマートフォンを開いて株式のサイトからモリスエ・エレクトロニクスの午前の終値を見る。

(下がってる⁉)

全体では相場は上がっているのに、モリスエ・エレクトロニクスは値を下げている。
ずっと順調だったから、週刊誌に載ったスキャンダルの影響だろうかと思えてくる。

(私のせい?)

山根からは屋敷に籠っているように言われたが、記者に囲まれたあの様子では帰ることすら難しそうだ。
それに誤解したままの匡は、もう屋敷には帰ってこない気がする。紗羽は孤独を感じた。

(私の居場所がなくなっちゃった……)

紗羽が途方に暮れていたら、タクシーから東京駅が見えた。



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