一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


(どこに行こう……どこなら大丈夫なんだろう……)

東京駅でタクシーを降りた紗羽は、あてもなく駅に入っていった。
たくさんの人が目的地に向かっている中で、自分だけが行き先を決められない。
ひとりきりで歩いていると、孤独感が紗羽の心に重くのしかかってくる。

(匡さんには父の遺した会社を救ってもらって、屋敷に住まわせてもらって、別荘を買い戻してもらって……)

ひとつひとつあげればきりがないくらい、紗羽は匡に負担ばかりかけている気がする。

(私は匡さんになにも返せないのに)

悩んだ結果、紗羽は清水のいる神戸に行こうと思い立った。
沈んだ気分のまま新幹線の切符を買う。
グリーン車に乗ってシートに腰を下ろすと、少しずつ冷静になってきた。
バッグからスマートフォンを取り出すと、三船にメッセージを送る。
『マスコミの目があるからしばらく屋敷に帰りません。
もう大人なんだから自分でなんとかします。心配しないで』と言葉を選んで入力した。

(泣いちゃいけない……)

こんなとき、いつもなら匡が紗羽の側にいてくれた。
だが、今回は匡に避けられているのだから甘えられないし、これ以上は彼に迷惑をかけたくない。



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