一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
匡には翔と関係があったように誤解されたままだし、『弟と関係を持った妻』だと週刊誌に書かれてしまったのだ。
彼は会社を守るためなら紗羽を切り捨てるかもしれない。
紗羽が真実ではないとどんなに主張しても、世間の目は厳しいはずだ。
ずんずん暗い方へと考えが落ち込んでいき、紗羽はもう匡と元には戻れない気さえしてきた。
(こんなことで、終わってしまうの?)
せめて、あの日すぐに匡が話を聞いてくれていたら……。
翔がきちんと事情を話してくれていたら……。
でも時間は取り戻せない。なにより一番辛いのは匡が紗羽を信じてくれなかった事実だ。
両親が亡くなった日も突然だった。
今思い出せば、あの時も紗羽の幸せは一瞬で消えてしまった。
あんなに毎日楽しく暮らしていたのに、壊れてしまえばあっけないものだ。
(幸せって、脆いものなんだろうか……)
いきなりどん底に落とされる気持ちを味わうのは、これが二度目だ。
紗羽は森末家での穏やかな日々に執着する気になれない。
ズキズキと痛む胸を抱えていると、短絡的だがなにもかもパッと手離してしまう方がずっと楽に思えてきた。
紗羽は新幹線が神戸に着くまでの間、これからの自分の生き方を考え続けていた。