一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


***


匡は父親が亡くなって会社を継いでから、社長の務めを果たすためにいつも冷静でいなければと思ってきた。
大勢の社員のため、自分の心を押し殺してでも最善の道を選んできたはずだった。
だから、今の自分が一番嫌いだ。紗羽のことが絡むと平静でいられなくなるのだ。

初めて彼女を見かけた日も、義兄に虐げられていたのを見た時も感情が爆発しそうになった。
冷静な仮面を被ってずっと隠してきた素の自分があらわになる。
今回は、特に酷い。どうやっても自分がコントロールできないのだ。

(まさか、翔と……)

ベッドでしどけなく横たわっていた紗羽の姿が目に焼き付いて離れない。

彼女の側にいると平静でいられなくなる。そんな自分を彼女に見せたくなかったし、知られたくなかった。
彼女を厳しく問い詰めることも、激しく罵ることもできない。
勢いのまま詰め寄ってしまったら、彼女を壊してしまうほど抱いただろう。
だから、妻と距離をおいた。

匡は屋敷には帰らず、仕事に夢中なフリをして会社の近くのホテルに泊まり続けていた。



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