一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



「紗羽さんとなにかあったんですか?」

心配そうに声をかけてくる山根にも、弟と紗羽の関係を話すわけにはいかない。

「別に……」

何事もなかったように振舞っていたつもりだが、山根も違和感を感じていたのだろう。
心の奥にマグマを抱えた匡はそっとしておくのが一番だと考えたようで、普段通りに接してくれる。

そんな時、週刊誌にまた翔のスキャンダル記事が出た。
少し前に翔にお灸をすえようとわざと記事を潰さなかったのが仇となり、出版社は味をしめたのか今回はもっと酷い内容になっていた。

匡と紗羽のことまでネタにされ、挙句は紗羽が兄弟を弄んだように書かれている。
『現代のシンデレラは悪女だった』と派手な見出しで、紗羽が父を亡くしたあと匡と暮らし始めたことがネタにされていた。
匡が小椋電子を救ったことで契約結婚だと穿った見方をしているし、内輪しか知らない異母兄のことまで暴かれている。
紗羽が匡を使って、新社長に就任した異母兄から会社を奪い取ったことにされている。

親を亡くした少女が社長と結婚したことでシンデレラになったと持ち上げられ、夫の弟にも手を出して不義の関係を楽しんでいると面白おかしく書かれているから、もしこの記事を紗羽を知らない人が見たらどんな悪女だと思うだろう。
根も葉もない滅茶苦茶な書かれ方だが、読者の興味は引く内容だ。

記事によると、どうやらふたりが軽井沢に行く時に翔が使った車は恋人のモデルの愛車だったらしい。
だから尾行されて、森末家から紗羽とふたりで軽井沢の別荘まで出かける様子を何枚も写真に撮られたのだ。
翔と紗羽の両方が二股をしていることになっている悪意に満ちた記事だった。

(あの時、翔とモデルの記事を潰しておけばよかった)

匡は後悔したが、もう遅い。記事はあっという間に世間に広がり、もみ消すことは不可能だった。



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