一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


夜中にホテルに戻った匡はぬるめのシャワーを浴びる。

勢いのある水流を頭からかぶっていると、脳の疲労が和らいでいく気がする。
毎日のように頭と体を酷使していたが、そろそろ限界かもしれない。

バスタオルで水滴を拭きながら、冷蔵庫のビールをあおる。
常宿になってしまったホテルの部屋だから、なにをするのも手慣れたものだ。
ひと息ついたが、まだ眠れそうにない。
匡はベッドに仰向けに横たわると、眠たくなるまで心の隅へ押しやっていたあの日のことを考えてみようと試みた。
何度も思い出そうとしたが、怒りがこみ上げてきて思考がまとまらなかったのだ。

まず、翔に話を聞こうと電話をかける。

「話があるんだ」
「……今何時だと思ってるの? 僕に話すことはないんだけど」

誰かが近くにいるらしく、ぼそぼそとくぐもった声だった。
周りはずいぶんと賑やかなようで、早口の英語が飛び交っている。音楽も聞こえた。

「お前、もう日本にいないのか?」
「とっくに、ニューヨークだよ」

日本は夜中だが、向こうはもう活動している時間だ。
弟はあの日の出来事などなかったように、空の向こうに帰っていたので驚いた。

「悪いが、切らずにいてくれ。軽井沢でのことだ」


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