一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
この夜、紗羽の両親の死を悼んでくれているのは親族よりもむしろ会社の従業員たちかもしれない。
特に副社長の清水の家族は、葬儀の事などなにもわからない紗羽を助けてくれた。
清水の妻の和江や、息子の健はどちらかが常に紗羽の側にいる。
健は大学病院に勤める内科医だ。
紗羽の父の主治医もしていたから訃報はショックだったはずだが、今は紗羽の体調を一番心配している。
「なにか水分だけでも口に入れた方がいいよ、紗羽ちゃん」
「うん」
「控室で横になろうか?」
「ここにいたい」
そんな会話を何度交わしたことだろう。両親が亡くなった連絡を受けてから、紗羽はなにも喉を通らないのだ。
紗羽が座ったままぼんやりしていたら、急に通夜の会場が慌しくなってきた。
また取引先の社長か国会議員とかが弔問に訪れたのだろうか。
紗羽はそんなことを考えながら、ふと顔を上げた。
そこには、見たこともないような美しい顔をした男性が立っていた。
「紗羽さん、こちらお父さんがお世話になっていた会社の社長さんだ」
条件反射のように椅子から立ち上がった紗羽は、清水の声がやけに遠くで聞こえる気がした。
「……大丈夫?」
紗羽を気遣うような、低くて温かい声だった。
大丈夫だと紗羽は返事をしようと思ったのだが、その瞬間フッと意識が遠のいた。
「あっ!」
「紗羽さん!」
そんな声がどこかで聞こえた気がしたが、紗羽の記憶はそこまでだった。