一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
取りもどせるならば


***


モリスエ・エレクトロニクス社長の森末匡はこの夏で38になった。
冷静沈着なイメージは相変わらずだ。
彼の唯一の汚点といわれたスキャンダラスな妻とは、ここ数年別居中だというのがもっぱらの噂だ。
だから彼には『離婚して再婚したらどうか』としょっちゅう声が掛かるが、その都度はっきりと断っているという。
奔放な妻のせいで女嫌いになったと陰で言われても気にしていないらしい。



「社長、会議室に皆さまお揃いです」

山根が社長室の窓際に佇む匡に声をかけた。会議が始まる午後二時まであと十分ほどだ。

「ああ」

力の入らない声だ。
このところの匡によくみられる、空虚な表情をしている。
新しいプロジェクトを立ち上げては無我夢中で働くくせに、合意に達して成立すると興味をなくしてしまう。
そして、次の獲物を追い求めるのだ。
なにに追われているのか、なにを求めているのか山根ですら迷うことがある。

紗羽がいない虚しさは仕事では埋められないのだろうと山根は思っているが口には出せない。



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