一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



確認事項を順に両社が承諾していく中で、匡はふと相手のシステム管理代表者と目が合った。
見るからに貫禄のある女性で、資料を見たり説明を求めたりするたびに表情がよく動く。
驚いたり微笑んだりして、管理職にしては気さくなタイプのようだ。

(たしか、メアリー・ブラウン部長といったか……)

ブラウン部長が斜め後ろに座っている秘書らしい小柄な女性の方を振り向いた。
なにか早口で喋っている。
大柄な部長が体を動かしたので、女性の姿が匡の座っている場所から直接見えるようになった。

(紗羽⁉)

黒髪が明るい茶色に変わっているが、紛れもなく紗羽だった。
ほっそりとした顎から肩のライン、華奢な体つき、指先まで美しい所作。
三年前はフェミニンな洋服を好んでいたが、今日はシンプルなグレーのスーツに身を包んでいる。
でも、紗羽に間違いない。

(どうして……)

匡は混乱した。

(まさか……今回の仕事関係者だったのか?)

昨夜のことが思い出された。

遅くに出張先から屋敷に帰ったら、珍しく三船が匡の帰りを起きて待っていた。
早く休むようにと声をかけたら、『紗羽さんがお見えになりました』と悲しそうに言う。
書斎になにか置いて行ったというから急いで確かめると、二度目の離婚届が机の上にあった。
茫然とする匡に、三船は目を伏せて『お元気そうでした』とだけしか言わなかった。
三船も紗羽が屋敷に来たこと以外、今どこにいてなにをしているか聞いていないという。
なにもわからないので余計に苛立ったがどうしようもない。
紗羽のことが気になったまま、匡は今日の会議に出席していたのだ。


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