一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「あなたの旦那様も素敵じゃない」
「え?」
いきなり匡の話を振られて紗羽は戸惑った。
「会議の間中、すごくあなたを気にしてたわよ」
「そ、そうでしょうか?」
会議の内容に必死だった紗羽には、匡を見る余裕などなかったのだ。
「今夜、ゆっくり話してみたら?」
部長は紗羽に向かって上手なウインクをしてみせた。
紗羽が離婚を決意して日本に来たことなど、ブラウン部長にはお見通しのようだ。
ホテルの部屋を出て、エレベーターに乗り込んでも部長のお喋りは止まらない。
「スズハ。私は昔馴染の清水からあなたのことを頼まれたとき、夫婦が拗れた事情は聞いていたわ」
「ブラウン部長……」
「でも、あなたが私の側に来てくれてよかったと思ってる! 仕事熱心だし向上心もあるし……」
「嬉しいです」
「あなたを本当の娘のように思っているわ。だから、あなたの幸せも願っているのよ」
上司というより母のような温かいまなざしを向けられて、紗羽は涙が出そうになった。
ブラウン部長はそっと紗羽の肩を抱きよせる。
エレベーターがパーティー会場のある階に止まったので、ふたりはホールに向かって並んで歩く。
「いい? どんな道を選ぶかはあなたの自由だけど、後悔が少ない方を選ぶの」
「後悔が少ない?」
会場に入る前に、ブラウン部長はもう一度紗羽の肩をぐっと抱き寄せると念を押すように言った。
「ふたつのうちのどちらを選んだって人間は後悔するものよ。だから、少しでも後悔が少ないと思った道を選びなさい」