一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
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匡がホールに入ると、人々のざわめきがさざ波のように広がっていた。
小椋夫妻が突然亡くなったと知らせを受けて、駆けつけた人ばかりなのだろう。
比較的大きな葬儀ホールだが通夜に訪れる弔問者は後を絶たず、亡くなった夫妻がいかに慕われていたのかが伝わってくる。
特に女性社員たちの涙声やすすり泣きが胸をうつ。
匡も可愛がってくれた小椋社長の白い百合に囲まれた遺影を見て目頭が熱くなったが、なるべく無表情のまま会社の関係者と挨拶を交わす。
モリスエ・エレクトロニクスの社長として彼なりに気負ってもいた。
「このたびは……」
「社長自らお越し頂けて、故人も感激していることでしょう」
顔見知りの清水副社長と話していたら、ふと喪主の席にいる少女の姿が目に留まった。
制服姿で俯いたまま座っている。両親を一度に亡くして、さぞ心細いことだろう。
「彼女が?」
「はい、小椋社長の娘さんです」
清水が辛そうな顔をしながらその少女に向かって声をかけた。
「紗羽さん、こちらお父さんがお世話になっていた会社の社長さんだ」
弾かれたように、その少女が顔を上げた。
少女は匡を見て、大きく目を見開いた。
思わず、匡は少女の顔に見入ってしまった。
とても整った顔立ちをしており、白い素肌と制服が幼さを感じさせるものの将来の美しさを連想させる。
吸い込まれそうな印象を受けるほど、澄んだ美しい瞳。
清らかな雰囲気の少女を目の前にして、匡は金や権力が渦巻く社会で戦っている自分が薄汚く感じられた。
俗世間の埃にまみれた自分が触れたら、彼女を汚してしまいそうな気さえする。
ただ彼女の顔色が酷く悪いので、心配になって思わず声をかけた。
「……大丈夫?」