一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


ブラウン部長に言われた言葉を噛みしめながら、紗羽はパーティー会場の隅に立っていた。
お互いの会社の担当者だけでなく、関連のある企業や外交関係者も招かれていたので思ったより規模の大きなパーティーだ。
立食式だから各自思うように食事や飲み物を楽しんでいるし、ここぞとばかり仕事を売り込んでいる人もいる。

部長から自由にするように言われたが、秘書とはいえ下っ端にすぎない紗羽は壁の花に徹していた。
同じ立場の数人の仲間と会話するくらいだ。

どうしても紗羽の目の端には匡の姿が映る。
探しているつもりはないのだが、豪華なパーティー会場でも彼は目立つのだ。
次々に出席者から声を掛けられているのか、彼の周りは人が絶えない。
ひとりひとりに丁寧に応対している様子が離れた場所から見ていてもよくわかった。
外見はクールに見える人だが、彼は誠実で優しい人だ。

(私は……あなたにだけは信じてほしかった)

今日も匡は仕立てのよいスーツを着こなしていて、片手にグラスを持ち背筋を伸ばして立つ姿は美しい。
初めて彼を見たときも男の人なのに美しいと思ったのを紗羽は思い出していた。
悲しみに沈んでいた高校生だった紗羽には、彼の優しい声と美しい姿は希望の光のように見えたものだ。




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