一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
初めて会ってから、もう九年近い年月が経つ。
それに、彼の側を離れてからだって三年も経ってしまった。
翔との関係を誤解された辛さ、信じてもらえなかった痛みは忘れられない。
(でも離婚はしないって彼は言うし……)
彼にとって、形だけでも妻の存在があれば十分なのだろうか。
どうでもいい存在だから放って置かれていると思うと悲しくなってくる。
わかっていても、紗羽はつい匡に見とれてしまう。
広い会場で彼の姿を知らず知らずのうちに追い求めてしまうのだ。
(あの美しい人の妻だったなんて、誰も信じないでしょうね)
トロントで暮らしている時は考えないようにしていたが、今夜は彼の妻だった頃がやけに思い出される。
毎晩のように我を忘れるほど愛されて、彼の隣で眠っていた自分。
(温かかった……)
彼の肌の温もりやしっとりとした手触りを感じたように、ふるりと体が揺れた。
「スズハ、どうした?」
「少し酔ったみたい。お庭を散歩してくるわ」
同僚に断りを入れて、紗羽は会場からホテルの庭園に出た。
美しく整えられた静かな場所だ。どこからか水音まで聞こえてくる。
そういえば、この庭の奥には滝があったことを思い出した。
この季節なら寒くもないだろうと、ノースリーブのドレスのまま紗羽は水音のする方へ歩いて行った。