一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
愛を信じた日



横浜から少し離れた場所にある、遠くに海が見える墓地に紗羽は佇んでいた。

昨日は、ブラウン部長や匡たちが乗り込んだチャーター機を羽田で見送った。
今ごろ一行は台湾の新竹(シンチク)サイエンスパークにある工場を視察中だろう。

紗羽は今日、両親のお墓参りに来ている。
カナダに行った頃から清掃やお参りをしてくれるサービスを利用していたので墓地は雑草もなく清められていた。

久しぶりの墓参だ。
母が好きだった紫のトルコ桔梗を供えて、線香を焚く。
香の匂いの中でそっと手を合わせて目を閉じた。

(ただいま、お父さんお母さん)

両親との思い出の詰まったを小椋家を出て、結婚して、カナダへ行って……なんて慌しい時間を過ごしてきたんだろう。

(ごめんなさい。落ち着かない娘で)

正式に離婚するつもりで帰国したのに、匡の言葉を聞いてから迷い続けていた。

彼がずっと自分ひとりを愛してくれるのだろうか。
もう一度彼を信じて、もし次になにかあったら耐えられるだろうか。
また誤解されたり、信じてもらえなかったりしたら……。

紗羽は頭の中で考えてはいるが、答えは出ることなく堂々めぐりするばかりだ。

パーティーの夜、匡が過去の出来事に真摯に向き合ってくれているのはわかった。
結婚していた時以上に愛を告げられて、あのままふたりきりでいたら流されてしまったかもしれない。
だが、匡は紗羽に考える時間をくれた。

(あと一歩を踏み出す勇気が出なくて……)

それくらい三年前の出来事は、紗羽にとって大きな衝撃だった。
心の傷が癒えないまま、月日だけが流れていたのだ。

明日は匡が台湾から帰ってくる。
次に会った時は自分の気持ちを伝えなければと思いながら、紗羽は両親の墓にずっと額ずいていた。








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