一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


翌朝、紗羽はホテルを出ようとしていた矢先にブラウン部長からのメッセージを受けた。
どうやら台湾に台風の影響が出始めていて、予定が少し早まっての帰国になるらしい。
今日の夕方羽田に到着予定だったが、チャーター機はお昼前に台北松山空港出発に変更になったようだ。
本社との連絡を密にしておくようにとの指示だった。
部長にメッセージの返信をしてから、本社にも確認して指示を受ける。
スマートフォンをバッグに入れようとしたらメッセージの着信があった。匡からだ。

『予定より早く帰れそうだ。会いたい』

シンプルな言葉に、彼の思いが込められているようで紗羽の手が震えた。

『お待ちしています』

それだけを送った。
彼が目の前に立った時に、その先の言葉を言いたいと思ったのだ。
まだ迷っている自分と、素直になりたい自分を紗羽は持て余していた。


紗羽は今日、ゆかりと会う予定だ。
彼女と過ごす時間が短くなるのが申し訳ないと思いながら約束の場所に向かった。


紗羽は帰国が決まった日に、ゆかりに連絡をした。
怒られるのは覚悟していたが、案の定もの凄く叱られてしまった。

ゆかりは三船や匡から紗羽の居場所を何度も尋ねられていたから、普通ではない状況だと察してくれていたようだ。
それでも、ひととおり文句を言わせろと息まいていた。
高校の時もだったが、なにかひと言でもいいからメッセージが欲しかったと延々と同じ話をされてしまった。

「ごめんなさい」

電話口でひたすら紗羽は謝り続けた。

「許してあげる。でも、この件は一生恩にきせるからね」

ゆかりらしい言葉だ。
この先もずっと友達でいてくれるんだと思うと、紗羽はありがたくて泣けてきたくらいだ。



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