一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
それからの日々
両親を突然亡くしたショックで、紗羽は暗闇の中にいた。
ずっと自分の部屋でぼんやりと過ごしている。
通夜、葬式、初七日までは屋敷を出入りする人が多くて家の中がバタバタとしていたのは覚えているが、記憶はまだらだ。
体に力が入らないし食欲もわいてこない。父の主治医だった清水健が様子を見に来ても、紗羽は会うのを断っていた。
健康でいることすら、どうでもいいことに思えた。
屋敷に引きこもってしまった紗羽を心配して、幼なじみの親友田所ゆかりが何度も連絡をくれた。
ゆかりの家は近所なので、幼いころから毎日のように遊んで一緒に育ってきたようなものだ。
子どもの頃からおっとりとしていた紗羽と違って、ゆかりは勝ち気で一本気な性格だ。
反対の性格だからこそ気が合うのか、高校は別々の学校でも紗羽にとって貴重な友人だ。
それなのに、今は親友のゆかりと会う気力すらもなかった。
音沙汰のない紗羽に痺れを切らしたのか、とうとうゆかりが小椋家を訪ねてきた。
『どうしても、顔を見せてほしい』と粘ったらしく、家政婦の三船順子がゆかりを紗羽の部屋まで案内してきた。
「紗羽、どうしてる?」
ベッドに寝転んでいた紗羽に、軽いノックの音と優しいゆかりの声が届いだ。
「紗羽? ゆかりだよ。顔だけでも見せて」
その声に紗羽はフラフラとドアまで行って、少しだけ開けた。
「……ゆかり……」
心配そうに見つめてくるゆかりと目を合わせたとたん、紗羽は涙が溢れてきた。
部屋に閉じこもっている間は泣くことさえ忘れていたのに、ゆかりの顔を見たら止まらなくなってしまった。
「紗羽、大丈夫?」
「うん……」