一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
三船が小椋電子の社員から聞いた噂では、子会社の社長にすぎない孝二が父の跡を継ぐと言いだして社内は混乱しているらしい。
志保は相変わらず家事を三船に任せて、毎日のように出歩いてはデパートやブティックの紙袋を抱えて帰ってくる。
家政婦とはいえ三船ひとりでは、広い小椋家の屋敷の管理と叔父一家の世話は大変だ。
部屋に引きこもっていた紗羽も、ようやく周囲が見えてきた。
(このままではいけない)
自分なりに助けになろうと、三船に手伝いを申し出た。
「紗羽さんがなさることではありませんよ。お勉強なさっててください」
「大丈夫よ、三船さん。お洗濯くらいならやらせてちょうだい」
「申し訳ございません。ありがとうございます」
三船は、紗羽が家事をすることに対してなにも言わなかった。
部屋から出て体を動かすようになったのを、かえって喜んでくれているようだ。
そろそろ五十を過ぎようという三船は身寄りもなく、何年も小椋家の家政婦一筋で生きてきた。
孝二たちに逆らってここを辞めさせられてしまったら、次の就職は難しいかもしれない。
紗羽は三船にまで苦労をかけてしまって、申し訳ない気持ちで一杯だった。
甥の和馬は中学生と聞いていたが、いつ学校に行っているのかわからない。
家でゲームばかりしているかと思えば、夜になるとどこかへ遊びに出かけている。
姪の絵美は、都内の女子大の附属中学に編入したようだ。
絵美は学校へは行っているようだが、だんだん服装や持ち物が派手になっていた。
孝二も志保も、ふたりの行動に関心がないのか特に注意などしていないようだ。
おまけに孝二は正式に紗羽の後見人になったので、屋敷でも会社でも思いのままに振舞っていた。